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東京高等裁判所 昭和35年(く)106号 決定 1961年1月18日

少年 R

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、少年は抗告人らの長男であつて、札幌○○高等学校を中途退学して苦学のため上京し、その途上において本件窃盗を犯したものであるが、平素から少年に対し、充分注意をしていた抗告人らは、少年を悔悟せしめ、再びかかる過をくりかえすようなことをさせないため、はるばる北海道から上京した次第であつて、少年を少年院に送致すれば、終生拭うべからざる汚点を残すこととなり、その前途についてはまことに憂うべきものがあるので、抗告人らは、いかなる犠牲を払つても少年を手許に止め、親としての慈愛を傾けてその監護育成につとめ、もつて、少年をして更生の途を歩ませたいと考える次第である、即ち、原決定には、その処分に著しい不当な廉があるから、これを取り消し、更に相当の裁判を求めるため、本件抗告に及んだというのである。

しかし、記録を調査して認められる次の各事実、即ち、少年は、札幌○○高等学校に入学後、盛り場を徘徊したり、売春婦に接したりするような非行があつて、ついに向学心を失い、同校を中途退学して家業の手伝をしていたところ、昭和三十四年九月両親に無断で上京して職を得たが、不良仲間とともに恐喝事件を起して逮捕された結果、保護者が上京し、少年の監督を約してその身柄を引き取り、右事件については同年十一月東京家庭裁判所において審判不開始の決定がなされたこと、少年はその後札幌市内において調理士見習等をして働いていたが、昭和三十五年七月強姦致傷事件を起して検挙され、札幌家庭裁判所は、訓戒等の保護的措置をもつて事件を終局させたこと、同年八月本件の共犯者たるYとともに再び上京して簡易旅館等に宿泊し、盛り場を徘徊して遊興に耽る等の非行を重ね、やがて喫茶洋食店に就職することが決定するに至つたものの、金銭に窮して本件犯行に出たものであること、その他記録に現われている諸般の情況に徴すると、少年の要保護性には相当根強いものがあると考えられるので、これを親権者の手許において保護観察所の保護観察に付するような処分だけでは到底保護善導の目的を達成することができず、その目的達成のためには、少年を従来の環境から遠ざけ、これを中等少年院に送致し、もつて、秩序ある生活規律に基く訓練を受けしめてその性格を社会に適合するように矯正し、よつて、将来に備える必要があるものと考えられるのである。

果して然らば、右と同趣旨に出でた原決定は、まことに相当であつて、少年法第三十二条にいわゆる著しい不当な廉はなく、本件抗告はその理由がないから、同法第三十三条第一項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

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